#16 足跡の先に

ハローワークへの通い始めて、ようやく給付金の支給が決まった。通帳の残高を確認する。ホテルマン時代の退職金を中心に400万ほどの貯金。そこには年長の誠一郎の車の売却代も加わっている。

「金銭的な余裕はある。問題は使い方だな」

朝四時。誠一郎は年長の誠一郎の生活習慣を真似ていた。目覚めとともに、一室を改装した自家製トレーニングルームへ向かう。懸垂マシン、バーベル、インクラインベンチ、可変式ダンベル。近くにジムがないことを逆手に取った投資だ。

「2人分の年会費を考えれば、1年で元が取れる」

そう提案した年長の誠一郎の言葉は、いつも合理的だった。

筋トレの後は読書とジャーナリング。マインドマップを描きながら、思考を整理していく。これも年長の誠一郎から学んだ習慣の一つ。

仕事探しは、ネットとフリーペーパーが主戦場となった。施設警備員一択。そんな中、興味を引く求人を見つける。

大学の施設警備員。月10回ほどの勤務。8時から翌朝8時までの24時間勤務。現在の住まいから車で5分という好立地。これは運命かもしれない、と直感が告げていた。

「良さそうな求人があったんです」

年長の誠一郎に報告すると、穏やかな笑顔で背中を押してくれた。

土曜日の面接。人気のまばらな大学の食堂の一角で、仕事内容の説明を受け、志望動機を語る。最後の質問は意外なものだった。

「タバコは吸いますか?」

「いいえ、禁煙しています」

その瞬間、面接官の表情が柔らかくなった。

「城山さん、同級生ですね」

思いがけない展開。履歴書から高校の同級生だと判明する。マンモス私立だったため、直接の面識はないものの、共通の友人の話で会話が弾んだ。彼は現場を統括する責任者だった。

その日の夜、合格の電話が入る。

「実は、タバコを吸うと言っていたら、一発アウトでしたよ」

電話の向こうで、責任者が笑う。過去に喫煙者が現場を離れてトラブルになったことがあり、それ以来の方針らしい。年長の誠一郎に勧められた禁煙が、思わぬところで功を奏した。

朝から朝までの24時間勤務。ホテルマン時代の夜勤の経験から少し躊躇いもあったが、5、6時間の仮眠が取れるという。一つずつ、確実にステップを踏んでいる実感があった。

一方の年長の誠一郎も仕事を探し始めていた。家賃分くらいは稼ぎたいという思いと、身分証なしでの就職という難題の狭間で思案している。

しかし、その表情は穏やかだった。スマートフォンを持たないことで連絡に追われる心配もなく、料理を楽しみ、時間的な余裕を満喫している様子。五十九年の人生で、仕事における成功は既に手にしている。結婚こそできなかったが、今は息子のような存在と暮らす日々。

マインドマップ用のA4用紙の中央に、年長の誠一郎は一つの問いを書いた。

「自分はどうなりたいのか?」

その先には、まだ何も書かれていない。それは焦りではなく、可能性として残された余白のようだった。

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