2024-11

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#10 新たな航路へ

社長との面談から一ヶ月。後任が決まった。隣の営業所の営業マン、年齢は同じ二十九歳。ほぼ同期の彼との引き継ぎが始まっていた。 取引先への挨拶回り。膨大な資料の整理。日々の業務の説明。その合間を縫って、誠一郎は年長の誠一郎に会って問いかけていた...
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#9 社長室の光と影

五階の廊下は、妙に静かだった。誠一郎の足音が、重く響く。窓から差し込む夏の日差しが、廊下の床に四角い光の帯を作っている。その光と影の境界線を、ゆっくりと踏みしめながら歩を進める。 社長室の前で深く息を吸う。扉の横には「不動」という達筆な書が...
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#8「辞めます」という一歩

車のハンドルを握りながら、誠一郎は考えていた。年長の自分との出会いから3日。非現実的な出来事は、確実に現実を変えつつあった。 5千円のビジネスホテル。年長の誠一郎の滞在費は全て若い誠一郎が支払っていた。給与からすれば決して安くない出費だが、...
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#7 決断の予感

「お前はどうなりたい?」 その問いかけに、若い誠一郎は思わず「えっ?」と声を漏らした。ドリンクバーから注いだコーヒーのグラスを持つ手が、わずかに震える。 ファミレスの窓から差し込む午後の陽光が、テーブルに置かれたハンバーグの皿を照らしている...
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#6 二つの時間の交差点で

車のエンジン音が響く中、ハンドルを握る若い誠一郎の横で、年長の誠一郎は静かに話を続けていた。まるで長年の記憶を手繰り寄せるように、ゆっくりと、しかし確かな言葉で。 「サウナで気を失った時は、まさかこんなことになるとは思わなかった」 車窓の景...
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#5運命の接触

朝の日差しが営業所の窓ガラスに反射して、一瞬、誠一郎の目が眩んだ。営業所の前に群がる鳩たちが、人影を察知して慌てて飛び立つ。毎朝の光景だ。 掃除用具を手に取り、営業所の前の鳩の糞を丁寧に掃除する。この作業から一日が始まる。誠一郎は黙々と掃除...
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#4 夜明けの決意

午前三時二十八分。目を開いた瞬間、誠一郎は時刻を悟っていた。何十年も続けてきた生活リズムは、体内時計として完璧に機能していた。暗闇の中で、ゆっくりと上体を起こす。 「さあ、どうだ」 声に出して確認するように呟く。背中が軽く痛む。後部座席を倒...
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#3 決断の時

フードコートの喧騒が、誠一郎の混乱した思考をかき消すように響いていた。ランチタイムのピークを過ぎた午後、それでも客足は途切れない。店舗から漂う様々な料理の香りが、空腹感を一層強くさせる。 水を一口飲んで喉を潤す。財布を持っていないことが、こ...
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#2 フードコートでの出会い

意識が戻った時、誠一郎は運転席に座っていた。見覚えのある車内の匂いと、懐かしい革のハンドルの感触。高級車に乗り慣れた手は、このハンドルの質感が決して上質なものではないことを覚えている。しかし、この懐かしさは何なのか。なぜここにいるのか、記憶...
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#1 サウナの中の出来事

社長室の大きな窓から、街の喧騒が遠く聞こえてきた。城山誠一郎は革張りの椅子に深く身を沈め、目を閉じた。地方都市とはいえ一等地に建つこのビルは、彼が二十年の歳月をかけて築き上げた帝国の象徴だった。しかし今、その重みが肩に重くのしかかっていた。...