スマートフォンの画面に、失業給付の情報が並ぶ。「給付額は離職時賃金の約六割」「支給開始は離職後三ヶ月経過後から」。数字を見つめる度に、若い誠一郎の不安は具体的な形を持ち始めた。
検索を重ねるうちに、給付制度の仕組みは理解できた。しかし、その理解が逆に現実味を帯び、生活への不安を増幅させる。
「生活していけるのかな」
その夜、ファミレスで年長の誠一郎に不安を打ち明ける。窓の外では、夜の帳が降りていく。
「収入を増やすより、支出を減らす方が確実だよ」
年長の誠一郎は、いつものように論理的な口調で話し始めた。
「まず、今のうちに新しい家を探そう。無職になってからでは借りられない可能性が高い」
二人で相談した結果、郊外の一戸建てを借りることに決めた。騒音トラブルの心配も少なく、部屋数も多い。田舎ではあるが、車があれば不便はない。
「家賃は五万程度。今の家賃が駐車場込みで十万だから、その差額だけでも大きいだろう」
広めの家に二人で住むことは、自然な流れのような気がした。年長の誠一郎のホテル暮らしもここまで。これからは二人の”自分探し”を、同じ屋根の下で進めることになる。
年長の誠一郎は、自分の車を五十万で売却した。その代金は若い誠一郎に渡された。「二人で一台あれば十分だ」という判断だった。
夜も更けてきた頃、年長の誠一郎はメモ用紙を取り出した。
「無理のない程度に始めてほしいことがある」
走り書きされた項目を見ると、若い誠一郎の表情が曇る。
タバコを辞める。外食を減らす。楽天のポイント活動。クレジットカードと銀行口座を作り、楽天市場で買えるものはそこで購入。お酒を控える、できれば断酒。
「少しずつでいいんだ。まずは外食とタバコから始めてみよう。これだけで月に七万くらいの節約になる」
昼も夜も外食。飲み会も頻繁。思い返せば、随分と贅沢な生活を送っていたのかもしれない。
不満そうな表情を浮かべる若い誠一郎を横目に、年長の誠一郎は数字を示していく。
「家賃、タバコ、外食、ポイント還元。これだけで月に十二万円の節約になる。施設警備員の仕事をしても、今とキャッシュフローは変わらないんだ。むしろ時間は増えるし、ストレスは減る」
論理的な説明に、若い誠一郎は観念したように頷いた。
「じゃあ、まずは外食を辞めてみます」
その日の夜、若い誠一郎はスーパーのカゴを手に取っていた。スーツ姿で買い物をする自分の姿が、店内の防犯ミラーに映る。妙な違和感と共に、少しだけ心地よさも感じた。
「意外と、悪くないかも」
レジに並びながら、若い誠一郎は思う。これまで当たり前のように続けてきた習慣を変えることは、確かに面倒だ。でも、その”面倒”の向こう側には、きっと新しい景色が広がっているはずだった。支出を減らすことは、同時に人生という荷物を軽くすることでもある。そんな気がしていた。
帰り道、買い物袋を手に歩きながら、若い誠一郎は夜空を見上げた。いつもより星が綺麗に見える。それとも、いつもは見上げる余裕さえなかっただけなのかもしれない。
コメント